LOGINふと、空を見上げる。吸い込まれるような透明感のあるブルーが僕の視界いっぱいに広がった。雲ひとつない青空。それを見上げながら、混じりけのない朝の空気を思い切り吸い込んだ。僕の肺が喜んでいるのを感じる。
「空を見上げるの、そういえば久し振りだな」
最近の僕はうつむき加減で登校していたから気が付かなかった。そして、忘れていた。空はいつだって平等に、誰にでも光を与えてくれることを。
そんなことを考えながら、歩を進めて校舎へと向かっていった。心地良さを胸いっぱいに感じながら。
* * *
「おはよう、心野さん」
「――――!!!」
教室に入って自分の席に着く前に、心野さんに朝の挨拶をしたわけだけど、やっぱりちょっとビックリされてしまった。でも昨日程ではないか。あの時は声を上げるとともに、お尻を浮かせるくらい驚かれちゃったわけだし。
「お、お、おはようございます」
前髪を両手で引っ張って顔をいっそう隠しながらではあるけど、ちゃんと挨拶を返してもらえた。だけど、まだ緊張しているのか、僕に顔を向ける仕草がまるで錆びついたからくり人形みたいだった。『ギギギ……』という音が聞こえてきそうな程。
でも、それでも僕はすごく嬉しかった。
「心野さん、昨日はちゃんと無事に家に帰れた? フラフラしながら教室を出て行っちゃってたから心配してたんだ」
「は、はい、電信柱に何度もぶつかりながら無事に……」
「たぶんそれ、無事とは言わないと思うんだけど……。あと、さっきからずっとあくびしてるけど、ちゃんと寝られた?」
前髪のせいで表情が分からないけど、さっきから何度も大あくびをしている心野さん。たぶんかなり眠いんだろう。
「あ、い、いえ、ちょっと妄想が捗りまして……それで、一睡もできなくて」
「え!? ね、寝てないの!? 全く!? というか何を妄想してたの?」
「あ、あ……えーと……ちょ、ちょっと色々と……はい……」
心野さんの耳が真っ赤になっている。一体どんな妄想をしてたのさ、心野さん……。気になる。すっごい気になる。もしやR18的な妄想? だから言いづらいんじゃないのかな?
訊きたい。訊きたいけど、なーんかちょっと怖い気もする。どうしようかな。
「あ、あと……パーティーを少々……」
「ぱ、パーティー? 誰かの誕生日だったとか?」
「い、いえ、そうではなくて……」
そこまで言って急に手遊びを始めた。なんとなくだけど、嫌な予感をビンビン感じる。
「あの……いえ……き、昨日ですね、お父さんとお母さんとアルトに話したんです。但木勇気くんっていう男子にナンパされちゃったって。そしたら、すごく喜んでくれて。それで、お、お父さんのテンション爆上がりしちゃって。それでパーティーが始まりまして……。お母さんは嬉しさのあまり踊りくるうし……」
「ちょ、ちょっと待って心野さん! 昨日言ったでしょ! ナンパじゃないって! というか、僕の名前をお父様達に?」
「は、はい、伝えました。お父さん、喜びのあまりカレンダーに『但木勇気くんからのナンパ記念日』って書いてました」
「ナンパ記念日……。心野さん、よく聞いて。僕はナンパなんかしてないんだってば。だからそんな記念日を作らないでよ。ちなみになんだけど、アルトって心野さんのご家族? 心野さんってもしかしてハーフだとか?」
「い、いえ。あ、アルトは犬です」
「犬!? 犬にまで報告しちゃったの!?」
「ミジンコ以下の私がナンパされちゃうなんて……ふふ……うふふふふ」
「ちゃんと僕の聞いてよ……。で、友野。なんでお前がこっちにいるんだよ! お前の席はもっと向こうだろ!」
いつの間にか、友野が地べたに座り込んでニヤニヤしながら僕達のやりとりを見ていた。見世物じゃないっていうの!
「いやー、お前が女子と話しているなんて新鮮な光景じゃん。脳裏に焼き付けておかないとと思って。それに、俺は責務を全うする義務があるんでな。お前の保護者として」
「いつからお前は僕の保護者になったんだよ……。まあ、モテモテのバスケ部のエース様には分かりませんでしょうな、僕の気持ちなんて。毎日毎日、彼女とただれた生活を送っているお前にはな!」
天は二物を与えずというが、そんな言葉は嘘っぱちであることを僕は知っている。それが友野はっちゃくという男だ。身長も180センチを軽く超え、顔面偏差値はめちゃくちゃ高く、そして抜群の運動神経。だから女子からも当然モテモテ。一体コイツは天から何物与えられているのか。羨ましいったらありゃしない。
「彼女? いや、今はいないぞ俺には」
へ? サラリと言ってるけど、確か友野って高校入学してたった一日で女子から告白されて、その人と付き合っていたような。
「なんで? この前の女子とは別れたの?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 結構前に別れてるぞ? どうして俺を好きになったのか訊いたんだよ。そしたら顔がいいからだってさ。俺の中身なんてどうでもよかったみたいだ。だから一日で別れたよ。外見だけで好きと言われても虚しいだけだろ」
この余裕振りよ。でも、そんなものなのか。僕には想像すらできないや、モテる奴の頭の中は。しかし、本当に羨ましい奴だ。
「おおっと、そろそろホームルームが始まる時間だ。おい但木。ナンパなんだから、ちゃんとした形で心野さんをデートにでも誘ってやれよ? お前、女子とデートなんてしたことなかっただろ? そろそろその女性恐怖症を治しておかないと将来ずっと独身だぞ?」
言って、友野は右手をひらひらさせながら自分の席へと戻っていってしまった。全く……デートになんて誘えるわけがないだろ。それができれば苦労しないっていうの。大体、心野さんとは昨日から喋ったばかり……って。
「ちょ、心野さん!? またどうしちゃったの!?」
昨日と全く同じ。心野さんは机に突っ伏し、だらーんと力なく両手を投げ出したまま動かなくなってしまった。デジャブ感が半端ない。
「お父さん、お母さん……私にまた記念日ができました。但木くんが私をデートに誘ってくれたんです。ミジンコ以下の私がデートだなんて。都市伝説じゃなかったんですね、デートって。ふふ、うふふふふ……」
「ちょっと待って! 誘ってない! 誘ってないでしょ!? あれは友野が勝手に言っただけ……って、心野さん? ちゃんと聞いてる?」
「デート、デートですよ、ひいお婆ちゃん……もう心残りはないです。もうすぐそっち行くから待っててね。あ、でも私、そしたら賽の河原で石を積まなきゃいけなくなるんだよね? どうしよう。でも、大変そうだけどその時は頑張るね。だから待っててね、ひいお婆ちゃん」
「心野さーん、お願いだからこっちの世界に戻ってきてよ。本当に何が見えてるの? ほら、そろそろホームルームが始まっちゃ――」
「デート、デート……。確かデートって一緒に買物行ったり、おしゃれな喫茶店でお喋りしたり、映画観に行ったり。それで、その後はあんなことやこんなことをするんだよね。あんなことやこんなこと……ふふ、うふふふふ……」
「あ、あんなことやこんなことって……。一体何をどう妄想してるの? あ! ほ、ほら! 先生来ちゃったよ! だから 戻ってきて!」
「デート……デート……」
「駄目だ……すっかり自分の世界に入り込んじゃってる。まだ授業すら始まってないのに、今日一日ずっとこんな状態が――ん?」
何か視線を感じる。僕はその視線を向けている相手を見つけるべく、心野さんから一度目を離して教室全体を見渡した。
「音有……さん?」
視線を向けているのが誰なのか、すぐ分かった。学級委員長の
言葉を交わしたことはないけど、とても目立つのでどんな人なのかは知っている。艷やかで綺麗な長い黒髪がとても印象的な、とても美しい女の子。
人望も厚く、いつも皆んなの輪を作ってしまい、そしてその中心にいる。僕のような人間からすれば雲の上のような存在だ。
その音有さんがこちらを見ていた。僕と目が合った瞬間、視線を逸らしたけど、間違いない。音有さんはこちらを見ていた。
だけど、とても気になることがあった。
音有さんの目がとても嬉しそうしているように見えたのだ。僕の勘違いじゃない。それくらい、さすがの僕にだって分かる。
結果として、それはやはり勘違いではなかった。その事実がはっきりするのはだいぶ後になるけど。
しかし、音有さんは知っていた。
心野さんのココロの中を。
【続く】
僕と心野さんは今、浴衣姿でお茶を飲んでくつろいでいる。畳の藺草の香りを心地よく感じながら。 一体どこにいるのかって? 今、僕達がいるのそこは熱海の旅館だ。 音有さんが僕に手渡してくれたチケットは、この旅館の宿泊チケットだったのだ。 高校生同士の場合、親の承諾書が必要なのでちょっと一悶着あったけれど、なんとか無事に許可をもらえて泊まることができた。「はあー。落ち着きますねえ」「そうだね。音有さんには、今度しっかりとお礼をしなきゃね」 あの夜の後、心野さんはバッサリと前髪を切ったことで髪型が不格好になってしまった。なので美容院に行ったそうだ。髪を切るのも美容院に行くのも数年振りだったらしく、えらく緊張したらしい。 だから今、僕の目の前に座る心野さんは前髪パッツンのボブカットになっている。うん、ほんとパッツンさんみたい。「あ、あのですね、但木くん。ここ、貸し切りの露天風呂があるみたいですよ?」「そうなんだ。まあ、僕達には関係ないけどね」「……そうですよね」 その間は何? しかも何故かシュンとしてるし。高校生同士で、しかもまだ付き合って数日しか経っていない僕達が一緒に入れるわけがないじゃないか。 でも、もしかして心野さん、貸し切りの露天風呂に僕と入りたいと思ってる? まあ、さすがにそれはないか。 という僕の考えは甘かった。 それからも心野さんは事あるごとに「貸し切り露天風呂があるいたいですよ?」と言ってきた。合計すると、十四回も。 そして豪華な夕食を堪能した後、まさにそれについての会話をすることに。「ね、ねえ但木くん。その……貸し切り露天風呂が」 はい、これで十五回目。「あの、心野さん? どうしてそこまでして僕に勧めてくるの?」「い、いえ、その……せっかくですし。それに、但木くんの裸……いいえ、なんでもありません……」 今、僕の『裸』って言わなかった? いや、あの夜を境に心野さんは積極的になったわけだけれど、なんというか……。「というわけで、貸し切り露天風呂があるみたいですよ?」 じゅ、十五回目ですか……。というわけでの意味もよく分からないし。 まあ、積極的になったのは良いことだ。でも、今回に限ってはベクトルが違う方向に向いてると思うんですけど。 そういえば、心野さんってムッツリスケベなんだった。うん、言い切ることができる
「もういい加減にして!!!!」 まるで世界中に届くのではないかと、轟くのではないのかと。そう思える程に大きくて、彼女の全魂が込められた力強い声だった。 声の主は、僕が恋をした大好きで大切な人。 心野雫さんだ。「あらー。お久し振りー、ココちゃん」「やめてください。アナタにその名前を呼んでほしくはないです」 心野さんは歩み寄る。ココロノさんの所へ。 僕の勘は当たっていた。やはり心野さんはココロノさんのことを知っていた。事情も理由も分からないけど、それだけは確かだ。「どうして但木くんを狙ったんですか? 前みたいに手紙を書いて、直接私を呼びつければ良かったじゃないですか」「いやいやー。だってさあ。あの時ココちゃん、話してる途中なのに逃げちゃったじゃないの。だから今回も、呼んでも同じことになっちゃうんじゃないかなって思ってねー。でしょ? すぐに現実から逃げちゃう弱虫のココちゃーん?」「……私の呼び方を変えるつもりはないみたいですね」「いいじゃんいいじゃん、呼び方くらい。そういう細かいことばっかり気にしてるから成長しないんだって。少しは学ぼうねー」「成長していないことは認めます。だけど、呼び方くらいってなんですか? そのあだ名は私の大切な幼馴染が付けてくれた宝物のようものなんです」「へー、大切な人ねえ。でも、そんなに大切な幼馴染ちゃんのことを無視し続けてたのはどこの誰だったっけなー?」「……それも認めます。全部認めます。私の弱さも、情けなさも、弱虫なところも、全部。でも、私は変わります。絶対に変わってみせます。そう、決めましたから」 その言葉を聞いて、僕は口を挟みそうになったけど、やめた。『全部認める』とハッキリ言い切った心野さんは、何かしらの決意を持ってここに来て、そして言葉にしたんだ。邪魔はしたくない。 今の僕にできることは彼女を信じることくらいだ。「ふーん、そうなんだ。全部認める、ねえ。でも、こうして私がまた出てきてここにいるってことは、結局何も変わってないんじゃないのー?」「そ、それは……」「あ、一応言っておくけど、前だって最初にオトちゃんを呼んだんだよ? それを伝える前にココちゃん逃げちゃったから知らないと思うけどさー」「そ、そうだったんですか?」「うん、そう。でも、オトちゃんはただのイタズラメッセージだと思ったみたいで無
パッツンさんから送られてきたであろうメッセージに記載されていた時刻は、日付がちょうど変わる午前0時だった。意味としては全く違うのに、何故だか『逢魔時』という単語が頭の中でチラついた。 指定された場所はこの前と同じ公園。 それにしても、こんな時刻に高校生である僕を呼び出すとは。人として大丈夫なのかと不安を感じざるを得ない。「全く。親にバレないように家を出てくるのだって大変なのに。パッツンさん、一体何を考えてるんだよ」 僕は歩を進めながら、愚痴を吐き出す。ハッキリ言って、このメッセージを無視することだってできた。だけれど、僕は行く。いや、行かなければならない。 確信しているからだ。 これは絶対に、心野さんと関係しているということ。そして、きっと彼女のためになるはずだということを。 それに、音有さんが言っていた。心野さんが『全てを元に戻したい』と話してくれたと。だったら僕も協力する。力になってやる。心野さんは何かしらの覚悟を決めたに違いないから。 そして、僕は到着した。この前とは違い、パッツンさんはすでにいて、ベンチに腰掛けて僕のことを待っていた。「あ! 良かったあ、ちゃんと来てくれた。待ってたよーん。私の大切な但木くふーん」 な、なんかこの前よりも馴れ馴れしさがパワーアップしている気が……。というか、リアルで『くふーん』とか使う人に会ったの初めてだよ。 それにしても、街灯に照らされてハッキリと見えるパッツンさん。本当に可愛いな。可愛すぎる。 でも、やっぱり不思議だ。 前回もそうだったけれど、ここまで可愛い女子を目の前にしたら、緊張して絶対に女性恐怖症が発動するはずなのに。それがないんだ。不思議を通り越して、もはや奇妙と言っていい。「すみません。時間通りには来たんですけど待たせちゃったみたいで」「いいのいいのー。私が勝手に早く来ただけだから。それにしても他人行儀だなあー但木くんは。もっとフレンドリーに接してくれていいのよん」「いえ、その……癖と言いますか。それにまだ、パッツンさんにお会いするのも二回目ですし。いきなりフレンドリーには……」「えー、なんでまだパッツンさんって呼ぶの? この前、帰り際に教えたじゃん。私の名前。心野雫だって。雫ちゃんって呼んでいいのよん」「……分かりました。じゃあ、『ココロノさん』って呼ばせてください」
僕に届いた差出人不明のメッセージ――恐らく送り主はパッツンさん――には、幸いにも『明日の夜』と書いてあった。この前は届いたその日の夜に呼び出されたので何の準備もすることができなかった。 だが、今回は違う。 それに、恐らくだけど、この件に関して心野さんは何らかのことを知っている。あの時の反応を見て、それは分かった。 だから僕は学校に到着したら、少しでもいいから心野さんと話しをしたかった。彼女との会話の中で手がかりになる情報を得ることができるかもしれないと期待していたから。 しかし、それは叶わなかった。 心野さんは本日、珍しいことに学校を欠席していたからだ。 だけど、その代わりにビックリすることが起きた。教室に入り、自分の席に着くや否や、音有さんが興奮気味に僕に話しかけてきたのだ。「ねえ但木くん! 聞いて聞いて!」 この一言で、教室中が一気にざわついた。考えてみたら、音有さんが僕に話しかけるところをクラスメイトの皆んなは初めて見たわけで。そりゃ驚くよね。僕が女性恐怖症であることは周知の事実だから。 にしても……皆んなからの視線、特に女子からの視線がやっぱり怖いよ! 多少マシになったとはいえ、この女性恐怖症はまだ完全に克服できたわけではないみたいだ。いやはや、情けない……。「ど、どうしたのでござるか」 あー、周りを気にしすぎて音有さんにまで武士みたいな口調になってるし。どうして僕、こうなるのかな……。「あ……ごめんね。そっか、女性恐怖症発動させちゃったみたいね。そりゃそうだよね。クラスの皆んながコッチをすごく注目して見てるもん。誰もいないところで話すべきだったかな」 発動って。まるで特別なスキルみたいに言わないでほしいんですけど。「だ、大丈夫でござるよ……」「うーん、全然大丈夫じゃないような……。うん、じゃあ聞くだけでいいからね。返事は無理はしないでいいから。あのね、昨日の夜にココちゃんから電話があったの!」 ……え!?「こ、ココちゃんって! それって心野さんからってことですよね!?」「あらあら。一気に元に戻った」「あ、本当だ」「うふふ。但木くんってほんと、ココちゃんのことになると別人みたいになっちゃうよね」「そ、それはいいですから! 音有さん、続きを聞かせてください!」「うん、了解! でね、ココちゃんとお喋りしたの。何年振
僕と心野さんはファミリーレストランを出た。 とは言ってもすぐではない。心野さんが大量の鼻血を出してしまったせいで、貧血を起こしてしまって意識が朦朧としてしまっていたから。 それで、大体三十分後くらいかな。彼女の意識がはっきりしてからお店を出た。さすがにふらふらした状態で店外に出るのは危ないし。 で、ざわめく店内の様子で気付いたのか、女性の店員さんが鼻血を拭きに来てくれた、のだけれど……。「あららー、またですか」と言いながら笑顔で対応。以前もこのお店で心野さんは鼻血を出したわけで。で、その時に対応してくれたのもこの店員さnだった。でもさ、この人適応力高すぎだでしょ!「心野さん、もう大丈夫?」「あ、はい。また但木くんに迷惑かけちゃって……ごめんなさい」「謝らなくても大丈夫だよ。あと鼻血もそうなんだけど、胃の方は大丈夫? あれ、さすがに食べ過ぎだと思うんだけど……」「胃ですか? 全然問題ないです。美味しかったですから」 人間って、美味しかったらいくらでも食べられるというわけではないと思うんだけど……。心野さんって、実は結構な大食漢? そんなことを考えながら、僕と心野さんは歩く。ファミリーレストランを出た時には、もうすっかり夜になってしまった。春とは言っても、昼間はあんなに暖かったのに、やっぱり夜はまだ肌寒い。「そ、そういえば但木くん。あ、ああ、あの、さっき私に言ってくれたこと、ほ、本当に本当なんですか?」 言葉に恥ずかしさを添えて、心野さんは言う。『付き合うんだったら、僕は心野さんがいいな』 そう。僕は確かにそう言った。でも、我ながらヘタレだな。僕は心野さんに恋をしているのだとようやく理解ができたというのに、なんというか、上手く言えない。伝えられない。 だけど、キッカケは確かに作ることができた。僕はゴールデンウィークに入って心野さんと一緒に遊びに行ったら、その時にしっかりした形で告白をするつもりだ。 そう、決意したんだ。「うん、本当本当。その通り」「……但木くん? なんか軽すぎません?」「いいじゃん別に。ゴールデンウィークに入ったらしっかり伝えるよ」「えーと……あ、あの、ま、待ちきれないんですけど……」「ダメ。おあずけ」「おあずけって……私、犬じゃないんですから!」「そっか。じゃあ今だけは犬になってよ」「嫌ですよ! ちゃ
「ありがとうね、心野さん。付き合ってもらっちゃって」「いえ、別に……」 心野さんは約束通り、放課後にちゃんと僕に付き合ってくれた。そして今、僕達はファミリーレストランにいる。そう。あの時と同じお店だ。 なんだか遠い昔のことのように思える。つい最近のことのはずなんだけど。不思議なものだ。 でも、今はこの前とちょっと状況が違っている。心野さんに元気がないということだ。喋ってくれても蚊の鳴くように小さな声だった。 さて、どうするべきなのか。それを考えていた。色々と順序立てて考えてはいるんだけど、正直なところ、その順序が頭の中でこんがらがってしまって、上手く整理ができない。 でも、まずはこれかな。「……どうしたんですか、但木くん?」 僕は席を立ち、できるだけ心野さんに近付いた。そして床にぺたりと座り込み、正座。そのまま、両手を床について、頭を下げた。 THE・土下座である。「え!? え!? た、た、但木くん!? ど、どどど、どうしたんですかいきなり!?」 慌てふためく心野さんだったけど、これが僕が考えた末の、最大限の謝罪の仕方だった。これでも反省しているのだ。心野さんを、僕は傷付けてしまったのだから。「心野さん! 本当に、本当にごめんなさい!!」「……へ?」 ものすごく感じる、周りにいるお客さんの視線を。それはもう痛い程に。でも、そんなことを気にしている場合じゃない。場合じゃないんだけれど……。さっき、心野さんが『へ?』って言わなかった? どういう意味なんだろう。もしかして、『そんな土下座程度では許しません』的な感じ? まあ、そんなの関係ない。僕は謝るんだ、心野さんに。心の底から。「心野さん! 傷付けちゃって本当にごめんなさい! 具合が悪いって言ってたのに、先に帰しちゃったりして。一緒に帰るべきでした。送っていくべきでした。本当に、本当にごめんなさい!!」「……へ!? へ!?」 あれ? やっぱりさっきと同じ反応だ。『へ!?』の数がひとつ増えたけど。「た、但木くん! あ、あのですね、何か勘違いしてます!」 勘違い?「あ、あの、聞いてください! 違うんです! そ、そ、そうじゃないんです! ただ単に、私が弱かったんです! それに、こ、こ、こここ、怖かったの!」「こ、怖かった……?」「うん、そう。怖かったです……。但木くんが、私から離